ジャンル | アドバンスドノベル |
ハード | Windows(X68000 開発中) |
発売日 | 2001/??/?? |
発売元 | 自転車創業 |
公式サイト | http://www.anos.co.jp/anos2/anos2.htm |
昭和74年。元素Maの発見によって魔法の存在が明らかになったが、その後発展することなく消え去ろうとしていた頃の話。水華は魔法を教える「魔法学部」に間違って入学。魔法学部講師・花水木に転部を願い出るも阻まれる。花水木は物を持ち上げる魔法「浮動産」の実験を水華に手伝わせたいらしいが、その真の目的は? 魔法を独学で学んできたらしい幼なじみの冬星、花水木を慕う上級生の春菜、花水木の動向を探る魔法協会……それぞれの思惑が錯綜する中、実験の行方は?
宮崎アニメぽい絵柄のせいもあり、ほのぼの学園ものなのかなーと思っていたら、途中からは学園サイキックアクション? って魔法なんだからサイキックじゃないけど。怒濤の急展開が待っています。
舞台設定がユニーク。ストーリーの中心になる魔法は、その理論や体系といったところまで細かく考えられていて面白い。不動産関係の法律にひっかけた魔法の呪文も笑えるし(笑) 門外漢には呪文みたいなもんよね、法律の文言って。
元々魔法のない世界に魔法が出てくると、その力を求めてみんなが争ったり、逆に魔法を恐れたり……というお約束の展開になりがちなんだけど、ここでは魔法が「使えないシロモノ」として世間に見捨てられているのも、妙な現実感を生んでいる。魔法だ超常現象だといっても、それが直接自分に対して何かを及ぼさない限りは、騒ぎもせずにとりあえず放置するもんなんだろうなー世間って。
そんな感じで、魔法を軸に人間模様が描かれます。世界はどこか淡々と、人間は時に熱く。
『あの、素晴らしい をもう一度』(以下『あのすば』)のANOSシステムを継承した「ANOS2」。「一度通ったことのあるルートは一気にすっ飛ばして、分岐から分岐へ1クリックで行き来できる」という快適さはそのままに、新たに「チュートリアルモード」を取り入れています。
いわゆるマルチエンディングではありません。一本道のストーリーを何度も往復し、新たな選択肢を開いていくことでただ1つのエンディングを目指します。なーんだエンディング1個しかないんだつまんない、とか思っちゃいけない。このゲームには、物語を読み進めるうちに「○○しますか?(Yes/No)」などと表示される通常の分岐だけでなく、「隠れた分岐」があります。これがキモ。
「隠れた分岐」とは? 例えば我々の、ふだんの生活を思い浮かべてみる。コンビニに買い物に行って、必要な品物をとってレジに向かったときに、「あれ、何か他に買ってくるものなかったっけ?」と何か引っかかるものを感じたとする。その時に、朝牛乳を飲もうと思ってそれがなかったことを思い出せば、「牛乳も買う」という行動が発生する。そうでなければ、「……まあいいか」でそのままレジに向かう(で帰宅してから、「あーあの時牛乳のことを思い出していればー」と悔しがる(笑))。コンビニにいた時に「牛乳がなかった」という事実を思い出せないことには、「牛乳を買う」という展開は決して出てこない。
これと同じことが、このゲームでも起きます。水華が「あれ、何か忘れているような……」と首をひねる場面がある。ここでプレイヤーが思い出す手伝いをしてやる。具体的には、今まで読み進めてきた中で出てきた「キーワード」がいくつかあるので、そこからその場面に適切と思われるものを選んで、水華に思い出させてやる。合っていれば、水華は「あ、そういえば!」てな感じで今までと別の行動をとり、新たな展開を迎えると。これが隠れた分岐であり、それを思い出させるモードがチュートリアルモード。
わたしゃ体験版しかやったことありませんが、カプコンのGBAゲーム『逆転裁判』をやったことのある人なら、あれの裁判シーンを思い浮かべるといいかも。適切なタイミングで反証したり、証拠品を出していったりすると裁判が有利な展開になっていく、あの感覚に近いかな。
適切なキーワードを思い出させるためには、前後の文脈や置かれた状況、その他諸々をプレイヤー自身が把握していないといけないわけで、「何だか分かんないから、とりあえず選択肢総当たりー」というわけにはいきません(総当たり的方法がないわけではないけど)。記憶や解釈を頼りに、「ここでこれを思い出すとこういう反応するかな?」と、ある意味推理するような感覚でキーワードを投げてやる。そして読みが当たれば、水華の「あ、そういえば!」と同時にプレイヤーも「しめた!」となるその一体感。プレイヤーの知らないうちにフラグが立っていて、何だか知らないけど選択肢が増えているからそっちに行く、みたいな置き去り感はなし。ゲームへの没入感は、『あのすば』と共通するところかな、と思います。
人生は選択の連続だ、なんて書くと安っぽい人生論みたいだけど(笑) 誰もが一度は考える、あの時もしこうしていれば、あの時あんな事を考えなければ……その「もしも」がこんなに楽しいとは。それはやはり、プレイヤー自身の経験こそが次なる選択肢をつくる「チュートリアルモード」に負うところが大きいと思います。ノベルものをやったことのない人にもお勧め。
『あのすば』同様、クリアだけならプレイ時間は5時間ぐらい。満足感は時間に関係なく十分あると思いますが、大作ものに慣れている人だと、あっという間に終わっちゃって拍子抜けするかも。